【専門家が解説】注文住宅と建売住宅、資金計画で気をつけること

マイホームの購入を考え始めた時、まず多くの人が直面するのが「注文住宅にするか、それとも建売住宅にするか」という選択ではないでしょうか。この二つの購入方法は、それぞれに魅力がありますが、同時に資金計画において大きく異なる注意点が存在します。
一級建築士として、私はそれぞれのメリット・デメリットを熟知しており、特に資金面での落とし穴や、賢く進めるためのポイントを多く見てきました。今回は、注文住宅と建売住宅、それぞれの資金計画で気をつけるべきことを詳しく解説します。
注文住宅と建売住宅、それぞれの特徴と資金計画の難易度
まず、両者の基本的な特徴と、資金計画における難易度を理解しておきましょう。
注文住宅:
特徴: 土地を探し、その土地にゼロから希望通りの家を設計・建築します。間取り、デザイン、設備、性能など、全てを自由に決められるのが最大の魅力です。
資金計画の難易度:高。土地費用と建物費用が別々に発生し、設計や仕様によって費用が変動しやすく、見えないコストも発生しやすいため、綿密な計画が必要です。
建売住宅:
特徴: 土地と建物がセットで販売され、すでに完成している、または建築中の家を購入します。完成済みの場合は実物を見て購入できるため、イメージとのギャップが少ないのが魅力です。
資金計画の難易度:低。価格が明確で、必要な費用が分かりやすいため、予算が立てやすいです。
注文住宅の資金計画で気をつけること
注文住宅は自由度が高い分、資金計画には特に注意が必要です。
1. 土地と建物の「予算配分」を先に決める
注文住宅の場合、まず土地を購入し、その後に建物を建築します。この際、土地探しに夢中になりすぎて、建物に充てる予算がなくなってしまった…と
いう失敗は少なくありません。
ポイント: 事前に総予算を明確にし、その中で「土地にいくら」「建物にいくら」という予算配分を大まかに決めておきましょう。土地の価格は地域や条件で大きく変動するため、最初に上限を設けることが重要です。
専門家の活用: 土地探しを始める前に、信頼できる建築士やFP(ファイナンシャルプランナー)に相談し、自分たちの理想の家を建てるにはおおよそどれくらいの建築費がかかるのか、そのためには土地にいくらまでかけられるのか、具体的なアドバイスをもらいましょう。
2. 「別途工事費用」を見落とさない
建築費というと「建物本体価格」に目が行きがちですが、注文住宅には本体価格以外にも多くの「別途工事費用」が発生します。
主な別途工事費用:
地盤改良工事費: 地盤調査の結果、地盤が弱いと判断された場合。数百万円かかることも珍しくありません。
外構工事費: 庭、駐車場、門扉、フェンスなど。
解体工事費: 建て替えの場合。
付帯工事費: 給排水引き込み、ガス引き込み、電気引き込みなど。
空調設備費: エアコン、全館空調など。
照明・カーテン費用: 本体価格に含まれない場合が多い。
ポイント: これらの費用は、総建築費の10%〜20%程度を占めることがあります。契約前にこれらの費用がどこまで含まれているかを明確にし、見積もりに計上してもらいましょう。予算に含んでおかないと、完成間際で予算オーバーに陥る原因となります。
3. 「つなぎ融資」の費用を考慮する
注文住宅の場合、土地購入時、着工時、上棟時など、建物が完成する前に工事代金の一部を支払う「中間金」が発生します。住宅ローンの本融資は建物完成後に行われることが一般的なため、それまでの支払いに充てるために「つなぎ融資」が必要になることがあります。
ポイント: つなぎ融資には別途金利や手数料が発生します。これらの費用も総資金計画に含んでおく必要があります。
確認事項: 利用する住宅ローンが、つなぎ融資に対応しているか、手数料はいくらか、いつ返済が始まるかなどを事前に確認しましょう。
4. 設計変更やオプション追加による費用増に注意
注文住宅では、設計段階や工事中に「もう少しこうしたい」「やっぱりあの設備を」といった希望が出てくることがあります。その都度、気軽に設計変更やオプション追加をすると、あっという間に予算オーバーになってしまいます。
ポイント: 変更や追加は必ず費用が発生することを意識し、その都度見積もりを確認する習慣をつけましょう。
優先順位: 最初から予算に余裕を持たせるか、本当に譲れない部分に絞り込むなど、優先順位を明確にしておくことが大切です。
建売住宅の資金計画で気をつけること
建売住宅は価格が明確な分、資金計画は立てやすいですが、それでも見落としがちなポイントがあります。
1. 「諸費用」の確認を徹底する
建売住宅は「物件価格」が分かりやすいですが、物件価格以外にも多くの「諸費用」が発生します。
主な諸費用: 仲介手数料(不動産会社経由の場合)、登記費用、不動産取得税、印紙税、住宅ローン契約費用(融資手数料、保証料、団信保険料など)、火災・地震保険料、固定資産税・都市計画税の清算金、引っ越し費用、新しい家具家電費用など。
ポイント: これらの諸費用は、物件価格の7%〜10%程度が目安と言われています。物件価格に含まれていない費用をリストアップし、総額でいくらになるのかを事前に不動産会社に確認しましょう。
2. 「完成済み」と「建築中」の違いを理解する
建売住宅には、すでに完成している「完成済み物件」と、まだ工事中の「建築中物件」があります。
完成済み物件: 実物を見て確認できるため、イメージとのギャップが少ない。すぐに引っ越しできる。
建築中物件: 完成イメージ図やモデルハウスで判断する必要がある。引き渡しまで時間がかかる。
ポイント: 建築中物件の場合、完成時期が遅れる可能性も考慮に入れ、仮住まい費用や現在の住まいの家賃との兼ね合いを確認しましょう。また、完成前の「青田買い」では、手付金を支払うタイミングや、住宅ローンの承認・実行のスケジュールも重要になります。
3. 性能や仕様をしっかり確認する
価格が明確な建売住宅ですが、その価格が「安すぎる」と感じる場合は、建物の性能や仕様が価格に見合っているかを冷静に判断する必要があります。
ポイント:
住宅性能表示制度の有無: 耐震等級、断熱等性能等級などがどのレベルか確認しましょう。後々の光熱費やメンテナンス費用に直結します。
長期優良住宅認定の有無: 認定を受けていれば、税制優遇や住宅ローン金利優遇が受けられます。
使用されている設備: キッチン、浴室、給湯器などのメーカーやグレードを確認しましょう。
アフターサービスや保証の内容: 入居後のトラブル対応や保証期間も重要なコスト要因です。
一級建築士の視点: 完成済み物件であっても、設計図書や仕様書を確認し、建物の見えない部分の性能や将来性を判断できます。可能であれば、契約前に建築士のセカンドオピニオンを求めることも有効です。
まとめ:賢い資金計画で、後悔のない家づくりを
注文住宅も建売住宅も、それぞれに魅力と注意点があります。
注文住宅: 「別途工事費用」と「つなぎ融資」、そして「設計変更による費用増」に細心の注意を払う。土地と建物の予算配分を最初に決める。
建売住宅: 「諸費用」の見落としに注意し、完成時期や建物の「性能」までしっかり確認する。
どちらの形式を選ぶにしても、最も重要なのは、「総予算を明確にし、すべての費用を洗い出し、無理のない返済計画を立てること」です。そして、迷った時は、私たちのような建築の専門家やFP(ファイナンシャルプランナー)に積極的に相談し、客観的なアドバイスを得ることが、後悔のない家づくりへの一番の近道となるでしょう。
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