
家を建てる。それは多くの人にとって一生に一度の大きなイベントであり、夢と希望に満ちた一大プロジェクトです。しかし、同時に「何から手をつければいいのか」「失敗しないためにはどうすれば?」といった不安もつきまといます。
一級建築士として、これまで数多くの家づくりに携わってきた経験から、私が自信を持っておすすめする「失敗しない家づくりのために、最初に考えるべき5つのこと」をご紹介します。この5つのポイントを押さえることで、あなたの家づくりはきっと成功に導かれるはずです。
1. 家族の「価値観」と「ライフプラン」を徹底的に話し合う
家は、単なる箱ではありません。家族が日々を過ごし、成長し、思い出を育む「暮らしの器」です。だからこそ、まず最初に家族全員で、「どんな暮らしをしたいか」「どんな家で、どんな風に過ごしたいか」を徹底的に話し合いましょう。
現在の不満点: 「今の家は収納が足りない」「リビングが狭い」「日当たりが悪い」など、現在の住まいの不満点を具体的にリストアップします。
将来のライフプラン: 子どもの成長、親との同居、趣味の変化、働き方の変化など、5年後、10年後、20年後の家族構成や生活スタイルを想像してみましょう。将来を見据えた間取りや設備計画は、後々の後悔を防ぎます。
譲れないこだわり: 「LDKは広くしたい」「在宅ワーク用のスペースが欲しい」「庭でバーベキューを楽しみたい」など、それぞれの「これだけは譲れない」という点を共有します。
これらの話し合いが、理想の家を具体化する最初のステップであり、ブレない家づくりの軸となります。
2. 無理のない「総予算」を明確にする(借りられる額 ≠ 返せる額)
「どれくらいの家が建てられるか」を考える前に、「無理なく返済できる予算はいくらか」を明確にすることが何よりも重要です。金融機関から提示される「借りられる額」は、あくまで最大値であり、実際に「返せる額」とは限りません。
手持ち資金(自己資金)の確認: 頭金、諸費用、引っ越し費用、家具家電購入費など、家づくりにかかる費用は建築費だけではありません。まずは手持ちの貯蓄でどこまで賄えるかを確認します。
毎月の返済可能額の算出: 現在の収入・支出を詳細に把握し、住宅ローン返済に充てられる月々の金額を割り出します。将来的な教育費や老後の資金なども考慮に入れましょう。
総予算の内訳を把握: 土地代(必要な場合)、建築費本体、別途工事費(外構、地盤改良など)、各種税金、ローン諸費用、火災・地震保険料など、家づくりにかかる全ての費用を網羅的にリストアップし、総予算のどこに何がいくら必要かを見える化します。
この総予算を最初に決めることで、後々の選択肢を絞り込み、予算オーバーを防ぐことができます。
3. 土地と建物の「バランス」を考える(土地と建物は一体)
土地を探す段階から、そこにどんな家が建つのかをイメージすることが重要です。「土地と建物は一体」と考えるべきです。
土地の特性を理解する: 日当たり、風向き、高低差、隣家との関係、周辺環境(騒音、景観など)、そしてハザードマップで確認できる災害リスク(浸水、地震、土砂災害など)を事前にしっかり把握します。
建築条件の確認: 建ぺい率、容積率、高さ制限、道路付けなど、その土地に建てられる建物の大きさや形には法的な制限があります。これらを無視して土地を購入すると、理想の家が建てられない、という事態にもなりかねません。
土地と建物の予算配分: 土地に予算をかけすぎると、建物にかけられる費用が減り、希望する間取りや性能が実現できないこともあります。逆もまた然りです。プロの建築士と一緒に、最適なバランス点を探ることが重要です。
土地と建物は切り離せない関係にあるため、土地探しの段階から建築の専門家(建築士)に相談することをおすすめします。
4. 依頼先を「比較検討」し、相性の良いパートナーを見つける
家づくりには、ハウスメーカー、工務店、設計事務所など、さまざまな依頼先があります。それぞれの特徴を理解し、ご自身の希望や予算、そして何よりも「相性の良いパートナー」を見つけることが成功の鍵です。
各依頼先の特性を理解する:
ハウスメーカー: 規格化されたプランが多く、品質が安定している。工期が短い傾向。
工務店: 地域密着型で、柔軟な対応が可能。自由度が高く、コストを抑えられる場合も。
設計事務所: 建築家が施主のこだわりを形にする。デザイン性や機能性の自由度が最も高い。
複数の会社から話を聞く: 最低でも3社程度から見積もりやプラン提案を受け、比較検討しましょう。
「人」で選ぶ: 担当者とのコミュニケーションは非常に重要です。話しやすさ、提案力、専門知識、熱意など、信頼できる「人」に出会えるかが家づくりの満足度を大きく左右します。
表面的な価格だけでなく、提案内容、担当者の対応、アフターサポートなども含めて総合的に判断しましょう。
5. 「住宅性能」と「維持コスト」の重要性を理解する
家は建てて終わりではありません。建てた後の暮らしの快適さや、光熱費、メンテナンス費用といった「維持コスト」が非常に重要になります。
高性能住宅のメリット: 初期費用は高くなる傾向がありますが、長期的に見れば光熱費が削減でき、住宅ローン金利優遇や保険料割引といった経済的メリットも享受できます(本サイトの他のコラムも参照ください)。断熱性、気密性、耐震性、耐久性といった性能は、快適性だけでなく、家計にも直結します。
メンテナンス計画の重要性: 外壁や屋根の塗装、水回りの設備交換など、家には定期的なメンテナンスが必要です。新築時にメンテナンスしやすい構造や材料を選ぶことで、将来の負担を軽減できます。長期的な修繕計画を考慮した予算組みも重要です。
資産価値の維持: 高性能でメンテナンスが行き届いた家は、将来的に売却する際にも高い資産価値を保ちやすくなります。
目先の価格だけでなく、「建てた後も快適に、経済的に暮らし続けられるか」という視点を持って家づくりに臨みましょう。
まとめ:最初の一歩が未来を拓く
家づくりは、考えることが多岐にわたり、時に大変だと感じるかもしれません。しかし、今回ご紹介した「家族の価値観」「総予算」「土地と建物のバランス」「依頼先選び」「住宅性能と維持コスト」という5つのポイントを最初にじっくりと考えることで、迷いや後悔を最小限に抑え、理想のマイホームへの確かな一歩を踏み出すことができます。
私たちは、建築のプロとして、あなたの家づくりを全力でサポートします。ぜひ、これらのポイントを参考に、ご家族にとって最高の家づくりを始めてください。
イエシール / 一級建築士と賢く家づくり