
マイホームの購入や新築を検討する際、多くの人がまず考えるのが「住宅ローン」と「火災保険」でしょう。それぞれ単体で検討することはあっても、「この二つをどう組み合わせるか」まで深く考える方は意外と少ないかもしれません。
しかし、一級建築士として、私はこの住宅ローンと火災保険の「賢い組み合わせ方」こそが、長期にわたる家計の安定と、万が一の安心に繋がると断言します。今回は、その重要なポイントを具体的に解説していきます。
住宅ローン契約における火災保険の「義務」
まず知っておきたいのは、住宅ローンを組む際、多くの金融機関が火災保険への加入を義務付けているという事実です。これは、万が一、担保となる建物が火災などで損害を受けた場合に、金融機関が貸し付けた資金を回収できなくなるリスクを避けるためです。
つまり、火災保険は「入っておいた方がいい」レベルではなく、「住宅ローンを組む上では必須」と考えてください。ただし、どの保険会社のどのプランを選ぶかは、借りる側の自由です。この「選び方」にこそ、賢い組み合わせ方のヒントがあります。
賢い組み合わせ方のポイント1:保険期間とローン期間の一致
火災保険の保険期間は、通常1年から10年で設定できますが、長期契約ほど年間の保険料が割安になる傾向があります。住宅ローンは20年、30年といった長期にわたる契約ですから、火災保険も住宅ローン期間に合わせて長期契約(最長10年)で結ぶのが基本的にはお得です。
ただし、2022年10月の法改正により、火災保険の最長契約期間が10年から5年に短縮されました。したがって、現在は最長5年で契約し、期間満了ごとに更新していくことになります。この更新の手間や、その時点での保険料率の変動リスクを考慮に入れておきましょう。
ポイント:
かつては長期一括払いが主流でしたが、現在は5年契約が最長。
短期契約を繰り返すよりも、長期契約(5年)の方が年間保険料は割安な傾向がある。
更新時に保険料率が変わる可能性もあるので、その都度見直しを検討する。
賢い組み合わせ方のポイント2:補償範囲と予算のバランス
火災保険は、火災だけでなく、風災、水災、雪災、落雷、爆発、盗難、物体の飛来・落下など、非常に多岐にわたる補償を提供しています。すべてをカバーしようとすると保険料は高くなりますが、必要な補償を見極めて選ぶことが重要です。
建築士が特に注目するべき補償
水災補償: 近年、ゲリラ豪雨や河川の氾濫による水害が増加しています。ハザードマップで浸水リスクが高い地域に住む場合は、必須の補償と言えます。低い土地や川沿いの住宅は特に注意が必要です。
風災・ひょう災・雪災補償: 台風や積雪による屋根、外壁、カーポートなどの損害に備えます。地域ごとの気候特性に合わせて検討しましょう。
破損・汚損補償: 不注意で家具をぶつけて壁に穴を開けてしまった、といった日常の突発的な事故による損害もカバーされます。小さな子どもがいる家庭などでは検討の価値があります。
ポイント:
ハザードマップを確認し、ご自身の住む地域の災害リスクを把握する。
必要な補償を厳選し、保険料と補償内容のバランスを取る。
不要な特約は省き、保険料を節約する。
賢い組み合わせ方のポイント3:住宅性能と保険料割引の活用
ここが、一級建築士である私が最もお伝えしたいポイントです。実は、住宅の性能を高めることで、火災保険料や地震保険料が大幅に割引されることをご存知でしょうか?
1. 火災保険料の構造級別割引
前回のコラムでも解説しましたが、火災保険料は建物の構造級別(M・T・H構造)によって大きく変わります。
T構造(耐火構造)への優遇: 木造住宅でも「省令準耐火構造」の基準を満たしていれば、火災に強いと判断され、一般的な木造(H構造)よりも保険料が安くなります。新築の木造住宅の多くがこの構造を採用しているため、契約前に必ず確認しましょう。
2. 地震保険料の割引
地震保険は火災保険とセットで加入するものですが、こちらも建物の耐震性能によって保険料が割引されます。
耐震等級割引:
耐震等級2で30%割引
耐震等級3で50%割引
免震建築物割引:50%割引
つまり、家を建てる段階で、耐震等級3や省令準耐火構造を取り入れることで、火災保険と地震保険の両方で保険料を大幅に節約できる可能性があるのです。これは、ローン返済期間中にわたるランニングコストの削減に直結し、家計に大きなゆとりをもたらします。
まとめ:ローンと保険は「一体」で考えるべき
住宅ローンと火災保険は、それぞれ独立した金融商品に見えて、実は密接に連携しています。特に、建物の性能が両方のコストに影響を与えるという点は、家づくりを考える上で非常に重要です。
住宅ローン契約には火災保険が必須。
火災保険は長期契約(最長5年)で年間保険料を抑える。
ご自身の地域の災害リスクに応じた補償内容を選択する。
建物の耐震性や耐火性を高めることで、住宅ローン金利優遇と火災・地震保険料割引の両方を享受し、トータルの家計負担を軽減する。
賢い家づくりとは、単に初期費用を抑えることだけではありません。長期的な視点で、住宅ローンと火災保険を「一体」で捉え、建物の性能と金融商品を最適に組み合わせることで、本当に安心で豊かな暮らしが手に入ります。ぜひ、この点を意識して、家づくりの計画を進めてみてください。
イエシール / 一級建築士と賢く家づくり