深掘り解説コラム32 / 【ペアローン vs 共有名義】夫婦で組む住宅ローンの賢い選び方

夫婦でマイホームを購入する際、多くのご家庭で検討するのが「夫婦共同で組む住宅ローン」です。特に、単独では希望の借入額に届かない場合や、共働きで夫婦の収入を合算したい場合に有効な選択肢となります。しかし、この共同ローンには主に「ペアローン」と「共有名義」という2つの組み方があり、それぞれにメリットとデメリットが存在します。

一級建築士として、私はお客様の資金計画をサポートする中で、このローン選びが将来の家計や税金、そして万が一のライフプランの変化に大きな影響を与えることを痛感しています。今回は、この2つの組み方を徹底比較し、後悔しないための賢い選び方を解説します。

夫婦で組む住宅ローンの3つのタイプ

まず、夫婦でマイホームを購入する際のローンの組み方は、大きく分けて3つのタイプがあります。

 夫婦どちらかが単独で組む(片方が連帯保証人になるケースも含む)

 ペアローン

 共有名義(連帯債務型・連帯保証型)

本コラムでは、夫婦で債務を負うことになる「ペアローン」と「共有名義」に焦点を当てて解説します。

ペアローンと共有名義:それぞれの特徴と違い

「ペアローン」と「共有名義」は、どちらも夫婦の収入を合算してローンを組む方法ですが、法律上、そして税制上の考え方が大きく異なります。

1. ペアローン

ペアローンとは、夫婦それぞれが単独で住宅ローンを組み、お互いが相手のローンの連帯保証人になるという仕組みです。

 特徴夫婦がそれぞれ独立した2つのローンを契約します。

 メリット:

  夫婦それぞれが「住宅ローン控除」を利用できる夫婦それぞれが債務者となるため、各自の持ち分割合に応じて控除を受けられます。これが最大のメリットと言えるでしょう。

  万が一の保障が手厚い夫婦それぞれが団信(団体信用生命保険)に加入するため、万が一どちらかが亡くなった場合、その人のローン残高は団信で完済されます。残された人は、自身のローンのみを返済すればよいので安心です。

  借入額の上乗せが可能夫婦それぞれの収入を合算して審査できるため、単独では難しい高額なローンを組みやすくなります。

 デメリット:

  諸費用が2倍かかる契約が2本になるため、事務手数料や印紙代などの諸費用も2倍かかります。

  手続きが煩雑: 2本のローン契約手続きが必要となり、時間や手間がかかります。

  お互いが連帯保証人どちらかが病気や失業などで返済が困難になった場合でも、連帯保証人として相手のローンを返済する義務が発生します。

2. 共有名義(連帯債務型)

共有名義(連帯債務型)とは、夫婦どちらかが主たる債務者となり、もう片方が「連帯債務者」としてローンを組む仕組みです。一つのローン契約を夫婦で返済します。

 特徴住宅ローンは1本で、夫婦の収入を合算して審査します。

 メリット:

  諸費用が1本分で済む契約が1本のため、事務手数料や印紙代などが1回分で済み、ペアローンに比べて初期費用を抑えられます。

  手続きがシンプル契約が1本のため、手続きが比較的簡単です。

  夫婦それぞれが「住宅ローン控除」を利用できる夫婦の連帯債務額に応じて、各自の持ち分割合で控除を受けられます。

 デメリット:

  団信の保障が不十分な場合がある基本的に団信は主たる債務者しか加入できません。連帯債務者が亡くなった場合、主たる債務者の団信でローンは完済されず、連帯債務者の持ち分も含めて返済義務が残ります。ただし、最近では「夫婦連生団信」など、連帯債務者も保障される商品が増えています。

  対応している金融機関が限られるペアローンに比べて、連帯債務型に対応している金融機関は少ない傾向にあります。

夫婦で組む住宅ローンの賢い選び方

ペアローンと共有名義、どちらを選ぶべきかは、ご夫婦の「ライフプラン」と「優先順位」によって異なります。

あなたが「ペアローン」を選ぶべきケース

 万が一の保障を最も重視したい団信の保障を夫婦それぞれで受けたい場合。

 夫婦ともに安定した収入があり、将来も継続する可能性が高い: 2本のローンの返済をそれぞれで安定して行える場合。

 住宅ローン控除のメリットを最大限に活かしたい夫婦それぞれの年収が高く、控除額が大きくなる場合。

 諸費用が2倍かかっても、将来のリスクに備えたい初期費用よりも、将来の安心感を優先したい場合。

あなたが「共有名義(連帯債務型)」を選ぶべきケース

 初期費用や手続きの手間を抑えたい諸費用や手続きをシンプルに済ませたい場合。

 夫婦連生団信に対応している金融機関を選ぶ団信の保障を夫婦で受けられる商品が見つかる場合。

 どちらかの収入が不安定になる可能性がある一本化されたローンの方が、家計全体での返済計画を立てやすい場合。

【建築士の視点】将来のリスクを考慮したアドバイス

住宅ローンは、何十年も続く長い付き合いです。契約時には想定しなかった事態に備えておくことが非常に重要です。

 離婚リスク万が一、離婚することになった場合、ペアローンは2つのローンが複雑に絡み合い、名義変更などの手続きが煩雑になる可能性があります。一方、連帯債務型も同様に、名義変更は容易ではありませんが、ローンが1本である分、手続きは比較的シンプルです。

 出産・育児による休職リスク夫婦どちらかが産休・育休で一時的に収入が減少する可能性がある場合は、毎月の返済負担をどうするか、事前に夫婦でよく話し合うことが大切です。

 高性能住宅のメリット: ZEH(ゼッチ)住宅や長期優良住宅などの高性能住宅を建てる場合、住宅ローン控除の控除額が拡大されたり、フラット35Sなどの金利優遇を受けられたりする可能性があります。夫婦のどちらが債務者になるかによって、これらの優遇措置の適用方法が変わることもあるので、事前に確認が必要です。

まとめ:後悔しないために「夫婦の話し合い」が不可欠

ペアローンと共有名義のどちらを選ぶべきかは、ご夫婦の現在の状況や将来の希望によって最適な答えが異なります。

 まずは、それぞれのメリット・デメリットを理解し、家計や保障、手続きの手間について比較検討する。

 「将来のリスク」を具体的に想定し、その際どうするかを夫婦で話し合っておく。

 複数の金融機関に相談し、ご夫婦の状況に合った商品や、夫婦連生団信などの保障内容を詳しく確認する。

住宅ローンは、単なる借金ではなく、ご夫婦の未来を支える大切なツールです。建築士やファイナンシャルプランナーなどの専門家の意見も参考にしながら、後悔のない賢い選択をしてください。

イエシール / 家を建てようと思ったら、一級建築士と賢く家づくり

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