深掘り解説コラム31 / 坪単価の罠! 建築費の総額を正しく把握する方法

「あのハウスメーカーは坪単価が安いって聞いたから」「坪単価〇〇万円なら、この広さで建つはず!」

家づくりを検討し始めると、誰もが一度は耳にする「坪単価」という言葉。この坪単価を基準に、建築費を概算したり、ハウスメーカーや工務店を比較したりする方も多いのではないでしょうか。しかし、この坪単価こそが、家づくりの予算を大きく狂わせ、後々後悔に繋がる「罠」となることがあります。

一級建築士として、私はお客様が坪単価に惑わされず、建築費の「総額」を正しく把握し、納得のいく資金計画を立てることの重要性を強く感じています。今回は、坪単価の「罠」の正体を明らかにし、家づくりの総費用を正確に把握するための具体的な方法を解説します。

「坪単価」が危険なワケ:その「罠」の正体

なぜ坪単価を鵜呑みにしてはいけないのでしょうか。その理由は、坪単価に「明確な定義がない」ことにあります。

 何が含まれているか不明確:

  あるハウスメーカーでは「本体工事費のみ」を坪単価の対象としているかもしれません。

  別の工務店では「本体工事費+一部の付帯工事費」が含まれているかもしれません。

  実際には、地盤改良費、外構工事費、設計料、給排水工事、電気の引き込み、解体費、仮設工事費、消費税など、多くの費用が別途必要になります。これらの費用が含まれているか否かで、坪単価の見え方は大きく変わります。

 計算方法が異なる:

  坪単価は「本体工事費 ÷ 延床面積(坪)」で計算されますが、この「延床面積」の解釈も会社によって異なることがあります。

  吹き抜けやロフト、ガレージなど、どこまでを延床面積に含めるかで、同じ本体工事費でも坪単価は変動します。

 設備や仕様のグレードが不明確:

  提示される坪単価は、あくまで「標準仕様」であることがほとんどです。しかし、この「標準」の定義が会社によって大きく異なります。

  グレードアップしたいキッチンやお風呂、床材、断熱材などを選ぶと、あっという間に費用が跳ね上がります。

 ハウスメーカーと工務店で坪単価の考え方が異なる:

  広告宣伝費やモデルハウス運営費などが含まれるハウスメーカーの坪単価は、一般的に高めに見えがちですが、その分、初期の見積もりに含まれる項目が多いこともあります。

  工務店は坪単価が安く見える場合でも、後から追加費用が発生しやすい傾向があります。

このように、坪単価は会社ごとに計算基準がバラバラで、それを横並びで比較しても、実態とはかけ離れた印象を受けてしまう可能性が高いのです。

建築費の「総額」を正しく把握するための3ステップ

坪単価の罠にはまらず、家づくりの総費用を正確に把握するためには、以下の3つのステップを踏むことが重要です。

ステップ1:家づくりにかかる費用の全体像を理解する

まず、家づくりには「本体工事費」以外にも様々な費用がかかることを認識しましょう。

 1. 本体工事費:

  建物の基礎工事から外壁、屋根、内装、設備(キッチン、バス、トイレなど)まで、家そのものを作る費用。

  ポイント: ここだけを見て判断しないこと。

 2. 付帯工事費(別途工事費):

  本体工事以外にかかる工事費用。

  例: 地盤改良費、外構工事費(庭、駐車場、フェンス)、給排水引込工事費、電気引込工事費、ガス工事費、解体工事費(建て替えの場合)、仮設工事費、空調工事費など。

  ポイント: これらは建物の規模や敷地の状況、既存設備の有無で大きく変動するため、見積もりでしっかり確認が必要です。

 3. 諸費用:

 工事以外にかかる費用。

  例: 設計料(設計事務所に依頼する場合)、確認申請手数料、各種検査費用、登記費用、印紙税、不動産取得税、住宅ローン関連費用(手数料、保証料など)、火災保険料、引っ越し費用、家具・家電購入費など。

 ポイント: 特に住宅ローン関連費用や税金は、物件価格や借入額によって変動するため、事前に確認が必要です。

一般的に、本体工事費が総費用の70%80%程度、付帯工事費が15%20%程度、諸費用が5%10%程度と言われています。しかし、これはあくまで目安であり、条件によって大きく変わることを理解しておきましょう。

ステップ2:複数の会社から「総額見積もり」を取得し、比較する

坪単価ではなく、「総額」での見積もりを複数のハウスメーカーや工務店から取得し、詳細を比較することが最も重要です。

 ポイント:

 「どこまで含まれているか」を明確に確認する: 提示された見積もりに、本体工事費以外にどの付帯工事費や諸費用が含まれているのかを一つひとつ確認しましょう。不明な項目は必ず質問し、詳細を説明してもらってください。

  「標準仕様」の範囲を確認する: どのレベルのキッチンやお風呂、建材が「標準」なのかを具体的に確認し、希望するグレードにした場合の追加費用も概算で出してもらいましょう。

  比較表を作成する: 複数の会社の見積もりを横並びで比較するために、自分なりの比較表を作成すると良いでしょう。項目ごとに、含まれているか(〇)、含まれていないか(×)、別途見積もりか()などを書き込んでいきます。

  一級建築士の視点: 私は、お客様に見積もりの内容を徹底的に精査するようアドバイスしています。曖昧な項目や「一式」と書かれた部分には要注意です。また、耐震性や断熱性といった「性能」に関する費用が明確になっているかどうかも重要なポイントです。

ステップ3:予算配分に優先順位をつけ、プロに相談する

総額を把握したら、限られた予算の中でどこに費用をかけるか、優先順位をつけていく必要があります。

 ポイント:

  削れない費用を明確にする: 地盤改良費やライフラインの引き込み費用など、削れない必須費用は最初に確保しましょう。

  「こだわりたい部分」と「妥協できる部分」を明確にする: 例えば、キッチンにはこだわりたいが、一部の収納は既製品で妥協するなど、メリハリをつけることが大切です。

  予備費を設定する: どんなに綿密な計画を立てても、予期せぬ出費が発生する可能性があります。総額の5%10%程度の予備費を見込んでおくと安心です。

  一級建築士やFP(ファイナンシャルプランナー)に相談する: 専門家は、見積もりの妥当性を判断し、無駄な費用がないか、予算内で理想を実現する方法はないかなど、客観的なアドバイスを提供できます。彼らの視点から、見落としがちな費用や、長期的なコスト(光熱費、メンテナンス費など)まで含めたアドバイスをもらいましょう。

  (参考:過去コラム「家づくりのお金、誰に相談すべき? 建築士とFPの違い」)

まとめ:「坪単価」ではなく「総額」で判断を

坪単価は、あくまで「目安」に過ぎません。その数字に惑わされることなく、家づくりにかかるすべての費用を含めた「総額」を正確に把握することが、予算オーバーを防ぎ、後悔のない家づくりを実現するための最も重要なステップです。

 家づくりの費用の全体像を理解する。

 複数の会社から「総額見積もり」を取得し、内訳まで徹底的に比較する。

 優先順位を明確にし、予備費を見込み、専門家(建築士、FP)に相談する。

これらのステップを踏むことで、あなたは坪単価の「罠」を回避し、理想の家づくりを安心して進めることができるでしょう。

イエシール / 家を建てようと思ったら、一級建築士と賢く家づくり

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