
日本は地震大国であり、いつどこで大規模な地震が発生してもおかしくありません。マイホームは一生に一度の大きな買い物だからこそ、地震による被害から大切な資産を守る備えは不可欠です。しかし、「火災保険に入っていれば大丈夫なのでは?」と考える方や、「地震保険は高そう…」と加入をためらう方も少なくありません。
一級建築士として、私は建物の耐震性向上に日々取り組んでいますが、どれだけ耐震性の高い家を建てても、大規模な地震によって全く被害を受けないとは限りません。万が一の事態に備え、地震保険の必要性を正しく理解し、賢く加入することが重要です。今回は、地震保険の基礎知識から保険料のシミュレーション、そして建築士の視点から見た地震保険の重要性について解説します。
なぜ「火災保険だけ」ではダメなのか?地震保険の必要性
「家が地震で倒壊したら、火災保険でカバーされるのでは?」と思われがちですが、火災保険では地震による損害は補償されません。
火災保険の補償範囲: 火災、落雷、破裂・爆発、風災、ひょう災、雪災、水災、盗難、外部からの衝突など、地震が原因ではない災害や事故による損害を補償します。
地震保険の補償範囲: 地震、噴火、またはこれらによる津波を原因とする、火災、損壊、埋没、流失による損害を補償します。
つまり、地震によって建物が倒壊したり、地震が原因で火災が発生したりした場合、火災保険だけでは一切補償されないのです。過去の震災を見ても、地震による建物の損壊や、その後の二次災害としての火災によって甚大な被害が出ていることを忘れてはいけません。
地震保険料は「建物の構造」と「所在地」で決まる
地震保険は、火災保険のように保険会社ごとに保険料が大きく異なることはありません。国と民間損害保険会社が共同で運営する公的性格の強い保険であり、保険料率は全国一律で、以下の2つの要素で決まります。
建物の構造級別:
イ構造(鉄骨・鉄筋コンクリート造など): 火災保険のM構造、T構造に該当する建物。保険料が安い。
ロ構造(木造など): 火災保険のH構造に該当する建物。保険料が高い。
一級建築士の視点: 構造級別は、建物の耐震性や火災に対する強さに直結します。木造住宅であっても、省令準耐火構造など、一定の基準を満たすことで火災保険料が安くなるのと同様に、地震保険料も構造によっては優遇されます。
建物の所在地:
地域ごとの地震リスクに応じて、保険料率が定められています。
地震保険料シミュレーションと「割引制度」
それでは、具体的な保険料の目安と、保険料を安くするための「割引制度」を見ていきましょう。
地震保険料シミュレーションの目安(東京都、保険金額1,000万円の場合)
| 構造級別 | 年間保険料の目安(一般的な割引なし) |
|—|—|
| イ構造 | 約6,000円〜10,000円 |
| ロ構造 | 約10,000円〜20,000円 |
保険金額について: 地震保険の保険金額は、火災保険の保険金額の30%〜50%の範囲で設定できます。例えば、再建築費用が2,000万円の家の場合、地震保険は600万円〜1,000万円の範囲で設定することになります。これは、地震による全損時には、生活再建のための資金を目的としているためです。
保険期間: 最長5年間の契約が可能で、長期契約にすると割引が適用されます(5年契約で約5%割引)。
地震保険料を安くする4つの割引制度
地震保険には、建物の耐震性に応じて保険料が割引される制度があります。これは建築士が最も注目してほしいポイントです。
耐震等級割引(最も重要!):
耐震等級1: 10%割引
耐震等級2: 30%割引
耐震等級3: 50%割引
一級建築士の視点: 新築を計画する際、「耐震等級3」で設計・建築することで、地震保険料が半額になります。初期の建築費は少し上がりますが、長期的に見れば保険料の削減だけでなく、地震に対する安心感は計り知れません。これは家づくりの予算を考える上で、ぜひ考慮してほしいポイントです。
免震建築物割引:
免震構造の建物の場合、50%割引。
耐震診断割引:
1981年5月31日以前に建築された旧耐震基準の建物で、耐震診断によって新耐震基準と同等以上の耐震性があると認められた場合、10%割引。
建築年割引:
1981年6月1日以降に建築された建物で、上記の耐震等級割引などが適用されない場合、10%割引。
ポイント: これらの割引は重複して適用されるわけではなく、最も割引率の高いものが一つ適用されます。特に、耐震等級3の取得は、割引率が最も高く、安全性の向上にも繋がるため、積極的に検討すべきです。
まとめ:地震保険は「転ばぬ先の杖」
地震保険は、決して「無駄な出費」ではありません。いつ起きるか分からない大規模地震に対して、あなたのマイホームと、その後の生活を立て直すための「転ばぬ先の杖」となるものです。
火災保険だけでは地震による損害は補償されない。
地震保険料は「建物の構造」と「所在地」で決まる。
「耐震等級割引(特に等級3)」を活用することで、保険料を大幅に安くできる。
保険金額は火災保険の30%〜50%で、生活再建のための最低限の資金と考える。
一級建築士として、私はお客様には耐震性の高い家づくりを推奨しますが、それでも地震保険の加入は強くお勧めします。建物の強度と保険の備え、この両輪で、本当に安心して暮らせるマイホームを実現してください。
イエシール / 家を建てようと思ったら、一級建築士と賢く家づくり