
住宅ローンを選ぶ際、選択肢の多さに頭を悩ませる方は少なくありません。特に近年は、店舗を持たない「ネット銀行」の台頭により、従来の「都市銀行(メガバンク)」との間で、どこで借りるべきかという議論が活発になっています。
一級建築士として、私は建物の設計だけでなく、お客様の資金計画、ひいては人生設計全体に寄り添うことを大切にしています。金利の多寡だけでなく、サービス内容や手続きの進め方など、両者にはそれぞれ特徴があります。今回は、ネット銀行と都市銀行の住宅ローンを徹底比較し、あなたが後悔しないためのローン選びのポイントを解説します。
ネット銀行と都市銀行、それぞれの特徴を比較
まずは、それぞれの基本的なメリット・デメリットを整理しましょう。
ネット銀行の住宅ローン
メリット:
低金利: 実店舗を持たず、運営コストを抑えられるため、都市銀行に比べて金利が低い傾向にあります。この金利差は、総返済額に大きな影響を与えます。
事務手数料型が主流: 保証料を不要とし、融資額の2.2%などの事務手数料を設定しているケースが多いです。
団信(団体信用生命保険)の保障が手厚い: 無料でガン保障や全疾病保障などが付帯する商品が多く、保障内容が充実している傾向があります。
手続きの利便性: Webやアプリで申し込みから契約まで手続きが完結できることが多く、時間や場所を選ばずに手続きを進められます。
審査スピード: 事前審査は数時間〜数日、本審査も1週間〜10日程度と、比較的スピーディーな傾向にあります。
デメリット:
対面での相談が難しい: 実店舗がないため、窓口での対面相談は基本的にできません。複雑な相談や、不明点をすぐに解消したい場合に不便を感じる可能性があります。
審査基準が厳しい傾向: 金利が低い分、安定した収入や勤務先など、審査基準が都市銀行より厳しいと感じるケースもあります。
手続きを自分で進める必要がある: 書類の準備や提出、各種手続きを基本的に自分でこなす必要があります。
つなぎ融資に対応していない場合がある: 注文住宅などで必要な「つなぎ融資」に対応していない、または条件が厳しいネット銀行もあります。
都市銀行(メガバンク)の住宅ローン
メリット:
対面で相談できる安心感: 全国の支店で専門スタッフに直接相談できるため、不明点をその場で解消でき、安心して手続きを進められます。
幅広い顧客層に対応: ネット銀行に比べて、審査基準が柔軟な場合があります。
つなぎ融資への対応: 注文住宅などで必要となるつなぎ融資に対応しているケースが多いです。
その他の金融サービスとの連携: 給与振込口座や公共料金の引き落としなど、普段利用している銀行で住宅ローンもまとめられる利便性があります。
デメリット:
金利が高め: 実店舗運営コストなどがかかるため、ネット銀行に比べて金利が高めに設定される傾向があります。
保証料が発生する場合がある: 事務手数料型もありますが、保証会社へ保証料を支払う必要があるタイプも多く、この保証料は数十万円〜百万円以上になることもあります。
団信の保障内容がシンプル: 無料で付帯する団信は、死亡・高度障害のみのシンプルなものが多く、特約を付けると金利が上乗せされるのが一般的です。
審査に時間がかかる場合がある: ネット銀行より審査に時間を要する場合があります。
住宅ローン選びで後悔しないためのチェックポイント
では、これらの特徴を踏まえ、あなたが後悔しない住宅ローン選びをするために、具体的に何をチェックすべきか見ていきましょう。
1. トータルの「金利差」と「諸費用」を比較する
単純な金利の数字だけでなく、事務手数料や保証料、団信の金利上乗せ分なども含めた「総支払額」で比較することが重要です。
ポイント:
ネット銀行は金利が低い分、事務手数料が融資額の2.2%など高めに設定されていることがあります。
都市銀行は金利が高めでも、保証料が不要な商品や、手数料が低めのプランもあります。
複数の金融機関で、借入希望額と期間でシミュレーションを行い、総返済額で比較しましょう。
2. 団信の「保障内容」を比較する
万が一の際に家族を守る団信は、金利と同じくらい重要な比較ポイントです。
ポイント:
ネット銀行は無料で充実した団信(全疾病保障など)が付帯するケースが多く、これが実質的な金利優遇になることもあります。
都市銀行は、特約を付けると金利が上乗せになることがほとんどです。ご自身の健康状態や、既存の保険加入状況を踏まえ、本当に必要な保障内容かを見極めましょう。
(参考:過去コラム「団信(団体信用生命保険)って何? 住宅ローン契約でチェックすべきポイント」)
3. 「サポート体制」と「手続きの負担」を考慮する
住宅ローンは、人生で最も大きな借金であり、契約内容も複雑です。
ポイント:
対面相談で安心したいなら都市銀行: 住宅ローンの専門家に直接相談したい、書類作成のサポートを受けたい、という方は都市銀行が向いています。
自分で手続きを進められるならネット銀行: 金融知識があり、Webでの手続きに抵抗がなく、自分で書類を準備できる方はネット銀行で問題ないでしょう。
不動産会社や建築会社が、特定の金融機関と提携している場合は、手続きのサポートが受けやすいこともあります。
4. 「審査の厳しさ」と「融資までの期間」を確認する
物件購入にはタイムリミットがある場合も多いため、審査期間や融資の確実性も重要です。
ポイント:
ネット銀行は審査基準が厳しい傾向にあるため、収入や勤務形態に不安がある場合は注意が必要です。
都市銀行は、審査期間は長めでも、担当者と相談しながら状況に応じた対応をしてくれる場合があります。
どちらの銀行を選ぶにしても、事前に仮審査(事前審査)を受けておくことは必須です。
5. 「金利タイプ」の選択と「住宅性能」の連携
変動金利か固定金利か、という選択は、金融機関の種類とは独立して考える必要がありますが、高性能住宅を選ぶことで金利優遇を受けられる場合があります。
ポイント:
高性能住宅(ZEH、長期優良住宅など)を建てる(購入する)場合は、フラット35S(全期間固定金利型)で金利優遇を受けられる可能性があります。
ネット銀行、都市銀行問わず、住宅の性能に応じた優遇プランがあるかを確認しましょう。
(参考:過去コラム「ZEH住宅って何? エコな家がお金に優しい理由を解説」)
(参考:過去コラム「変動金利 vs 固定金利:建築士が教えるあなたの最適な選び方」)
まとめ:あなたの「優先順位」が答え
ネット銀行と都市銀行、どちらの住宅ローンが優れているという絶対的な答えはありません。重要なのは、あなたが住宅ローンに何を最も求めるのか、という「優先順位」を明確にすることです。
「とにかく低金利で、総返済額を抑えたい」「保障が手厚い団信がいい」 → ネット銀行を優先的に検討
「対面で相談しながら安心して進めたい」「複雑な手続きは任せたい」 → 都市銀行を優先的に検討
「金利も重要だが、万が一の審査落ちが不安」「つなぎ融資が必要」 → 都市銀行も視野に入れる
どちらか一方に絞り込まず、それぞれのメリット・デメリットを理解した上で、ご自身のライフスタイルやリスク許容度に合った最適な選択をすることが、後悔しない住宅ローン選びの鍵となります。可能であれば、複数の金融機関(ネット銀行と都市銀行)で仮審査を受けて比較検討することを強くおすすめします。
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イエシール / 家を建てようとら、一級建築士と賢く家づくり