深掘り解説コラム17 / 火災保険の特約選び:水災、風災、雪災…本当に必要なのはどれ?

火災保険に加入する際、「基本補償に加えて、どんな特約を付ければいいんだろう?」と悩む方は少なくありません。水災、風災、雪災と並ぶ多くの選択肢を前に、「これも、あれも」と手当たり次第に付けてしまうと、保険料は高くなる一方です。

一級建築士として、私は建物の構造や立地が、これらの災害リスクにどう影響するかを日々見ています。本当に必要な特約を見極め、無駄なく賢く保険を選ぶことが、家計を守る上で非常に重要です。今回は、主要な特約の種類と、ご自身の家にとって本当に必要なものはどれかを見極めるポイントを解説します。

火災保険の基本と特約の関係

まず、火災保険の基本は「火災、落雷、破裂・爆発」による損害を補償することです。しかし、近年の日本では、台風や集中豪雨、大雪といった自然災害による被害が多発しています。これらの自然災害による損害を補償するためには、別途「特約」を付帯する必要があるのが一般的です。

特約の種類は多岐にわたりますが、主な自然災害に関する特約は以下の通りです。

 風災・ひょう災・雪災補償特約: 台風や突風による屋根や外壁の損害、ひょう(雹)による窓ガラスの破損、大雪によるカーポートの倒壊など。

 水災補償特約: 台風や集中豪雨による洪水、土砂崩れ、高潮などで家が浸水する、土砂が流入するといった損害。

 盗難補償特約: 盗難による家財の損害や、建物の破損。

 破損・汚損補償特約: 不注意による建物の破損(例:家具をぶつけて壁に穴を開けた)や家財の汚損(例:飲み物をこぼして絨毯を汚した)。

これらの特約を付けることで補償は手厚くなりますが、その分保険料は上がります。

本当に必要な特約を見極める3つのポイント

賢い特約選びのために、以下の3つのポイントを重点的にチェックしましょう。

1. 立地とハザードマップで「地域の災害リスク」を診断する

最も重要なのが、ご自身の家が建つ場所の「地域特性」と「災害リスク」を正確に把握することです。

 水災(洪水・高潮・土砂災害)のリスク:

  ハザードマップ(洪水、高潮、土砂災害)を必ず確認しましょう。自宅が浸水想定区域や土砂災害警戒区域に該当するかどうか、想定される浸水深はどのくらいかを確認します。

 川や海の近く、低い土地、傾斜地の近くに位置する場合は、水災や土砂災害のリスクが高いと考えられます。

  一級建築士の視点: 敷地の標高、周辺の排水状況、建物の基礎高などを総合的に判断し、水災リスクの度合いを評価できます。例えば、基礎を高く設計している家は、ある程度の浸水深にも耐えられます。

  本当に必要?: リスクが高い地域では、水災補償は必須と考えるべきです。リスクが極めて低い地域であれば不要なケースもありますが、近年は「想定外の浸水」も増えているため、慎重な判断が必要です。

 風災・雪災のリスク:

  台風の通り道になりやすい沿岸部や、強い季節風が吹く地域では、風災リスクが高まります。

  豪雪地帯や積雪の多い地域では、雪災(屋根からの落雪による損害、雪の重みによる家屋の損壊など)のリスクが高まります。

  本当に必要?: 日本全国どこでも起こりうる災害であり、保険料も比較的リーズナブルな場合が多いため、基本的に加入を推奨します。

2. 建物の「構造」や「築年数」を考慮する

建物の構造や築年数によって、災害に対する強度が異なります。

 構造級別(MTH構造):

 前回のコラムでも解説した通り、鉄筋コンクリート造(M構造)や省令準耐火構造の木造(T構造)は、火災だけでなく、風災・水災などに対しても比較的強いと評価されます。

  しかし、H構造(非耐火構造の木造)は、一般的にM構造やT構造に比べて、火災や自然災害による損害リスクが高いと判断されるため、特に手厚い補償を検討すべきです。

  一級建築士の視点: 建物の設計段階で、耐風・耐雪対策をどの程度施しているか(例:屋根の固定方法、開口部の強度など)を把握できます。

 築年数:

  築年数が古い建物は、経年劣化により、新しい建物に比べて風雨や積雪に対する強度が低下している可能性があります。

  本当に必要?: 築年数が古い家であれば、風災・雪災補償の重要性が増すこともあります。

3. 「家財」の補償は本当に必要か?

火災保険は「建物」と「家財」に分けて加入できます。建物はローン契約時に加入義務があることが多いですが、家財の補償は任意です。

 家財とは?: 家具、家電、衣類など、建物の中にある動産のことです。

 本当に必要?:

  高価な家具、家電、美術品などを多く所有している場合や、災害時にこれらの家財が失われた場合の経済的負担が大きいと感じる場合は、加入を検討しましょう。

  賃貸住宅にお住まいの場合、建物の火災保険は大家さんが加入していますが、家財保険は自分で加入する必要があります。

  賃貸物件からの転居の場合、新居での火災保険に家財補償も含まれているか、または別途加入が必要かを確認しましょう。

まとめ:賢い特約選びは「リスクの見える化」から

火災保険の特約選びは、単に保険会社のプランを比較するだけでなく、ご自身の家が持つ「地域のリスク」と「建物の特性」を深く理解することが何よりも重要です。

 ハザードマップで、ご自身の家の立地における水災・土砂災害リスクを徹底的に確認する。

 建物の構造(特に省令準耐火の有無)や築年数を考慮に入れる。

 家財の補償は、ご自身のライフスタイルと家計状況に合わせて判断する。

 不要な特約は付けず、必要なものだけを厳選する。

漠然とした不安から全ての特約を付けてしまうと、保険料は高くなるばかりです。信頼できる保険代理店やFPに相談する前に、ご自身で地域のハザードマップをチェックし、ある程度の情報を整理しておくことで、より的確なアドバイスを受けることができるでしょう。

このサイトでは、建築士の視点から、建物の性能が保険料にどう影響するか、そして災害に強い家づくりについて詳しく解説していきます。ぜひ参考に、あなたの家と家計を守る最適な火災保険を見つけてください。

イエシール 一級建築士と賢く家づくり

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