深掘り解説コラム15 / ハザードマップの見方と、我が家の災害リスク診断

家づくりや住まい探しをする際、「ハザードマップ」という言葉を耳にすることがあるでしょう。なんとなく「災害のリスクがわかる地図」という認識はあっても、具体的にどう活用すればいいのか、我が家や購入検討中の土地にどんなリスクがあるのかを正確に読み取れている人は少ないかもしれません。

しかし、日本に住む私たちにとって、ハザードマップの理解は、家づくりの「安心」を語る上で欠かせない要素です。一級建築士として、私は建物の耐震性や耐久性を追求しますが、それ以上に重要なのは、その建物が建つ「土地」が持つ災害リスクを把握することだと考えています。今回は、ハザードマップの基本的な見方と、ご自身の家の災害リスクを診断するポイントを解説します。

ハザードマップとは? 災害リスクの「見える化」ツール

ハザードマップとは、自然災害による被害を予測し、その被害範囲や避難場所、避難経路などを地図上に示したものです。各地方公共団体(市町村)が作成・公開しており、主に以下の災害リスクに関する情報が掲載されています。

洪水ハザードマップ: 河川の氾濫や内水氾濫(下水能力を超えた雨による浸水)による浸水深や浸水継続時間など。

 高潮ハザードマップ: 台風などによる高潮の浸水範囲や浸水深など。

 土砂災害ハザードマップ: 急傾斜地の崩壊、土石流、地滑りなどの危険箇所や警戒区域など。

 地震ハザードマップ: 想定される地震の震度分布、液状化の可能性、建物の倒壊リスクなど。

 津波ハザードマップ: 津波の浸水域や浸水深、到達時間など(沿岸部に多い)。

これらのマップは、インターネットで「〇〇市 ハザードマップ」と検索するか、各市町村の役所の防災担当窓口で入手できます。

我が家(または検討中の土地)の災害リスク診断、3つのステップ

ハザードマップは、ただ見るだけでなく、具体的な行動に繋げるための「診断ツール」として活用することが重要です。

ステップ1:複数のハザードマップを確認する

まず、ご自身の家や購入を検討している土地が所在する市町村が公開している全ての種類のハザードマップを確認しましょう。

 洪水・高潮マップ: 自宅の標高や、想定される浸水深を確認します。自宅がどの色のエリアに該当するか、色別の浸水深の目安をチェックします。また、避難経路や避難場所の位置も確認しておきましょう。

 土砂災害マップ: 自宅が「土砂災害警戒区域」や「土砂災害特別警戒区域」に指定されていないかを確認します。特に傾斜地に近い場合は要注意です。

 地震マップ: 想定される地震の震度、液状化の可能性(液状化危険度)などを確認します。地盤情報と合わせて確認することが重要です。

 津波マップ: 沿岸部の場合に確認。津波の到達時間や高さ、避難経路などを確認します。

複数の災害リスクが重なっているエリアもあるため、一つだけ見て終わり、ではなく、必ず全体を俯瞰して確認することが大切です。

ステップ2:周辺の地形や環境も合わせて確認する

ハザードマップに加えて、周辺の地形や環境もご自身の目で確認しましょう。

 河川や水路の位置: 自宅の近くに河川や水路があるか、その規模はどうか。

 高低差: 周辺の道路や隣地と比べて、自宅の敷地の高低差はどうか。低い場所にあると浸水リスクが高まります。

 過去の災害履歴: その地域で過去にどんな災害が発生したことがあるか、近隣住民や不動産会社に尋ねてみるのも有効です。

 避難経路の確認: 実際に避難場所まで歩いてみて、道のりや障害物を確認します。

地図上の情報だけでなく、現地を訪れて五感で感じる情報も、リスク判断の重要な材料になります。

ステップ3:建築士に相談し、適切な対策を検討する

ハザードマップや現地状況からリスクが把握できたら、それを「家づくり」や「住まい方」にどう活かすかを考えるフェーズです。ここが、建築士の専門知識が役立つ部分です。

 地盤改良の必要性: 地震による液状化リスクが高い場合、適切な地盤改良工事を検討します。

  一級建築士の視点: 地盤調査の結果に基づき、どのような地盤改良工法が最適かを判断し、提案できます。

 基礎の高さを上げる: 洪水リスクがある場合、建物の基礎を高くする「かさ上げ」や、1階部分をピロティ形式にするなどの対策が考えられます。

  一級建築士の視点: 浸水深予測に基づき、適切な基礎高さや耐水性の高い建材の選定、電気設備の配置なども含めた設計を提案します。

 耐震性の強化: 地震リスクが高い地域では、耐震等級3など、より高い耐震性能を持つ家づくりを検討します。

  一級建築士の視点: 地域特性や建物の構造を考慮し、最適な耐震補強計画や、免震・制震装置の導入などをアドバイスできます。

 土砂災害対策: 警戒区域内に当たる場合は、造成工事や擁壁設置、あるいは移転の検討なども視野に入れます。

  一級建築士の視点: 土地の形状や地質、法的な規制に基づき、最適な対策工法や、設計上の注意点を提案します。

まとめ:ハザードマップは「リスクを知り、備える」ための第一歩

ハザードマップは、決して「ここに住んではいけない」ということを示すものではありません。むしろ、「どのようなリスクがあるのかを知り、それに対してどう備えるか」を考えるための重要な情報源です。

 まずは、ご自身の地域のハザードマップを必ず確認する。

 地形や過去の災害履歴も合わせて把握する。

 リスクに応じて、建築的な対策や避難計画を具体的に検討する。

ハザードマップでリスクが分かったとしても、適切な対策を講じることで、安心・安全な暮らしは実現できます。漠然とした不安を抱えるのではなく、具体的な情報を基に、信頼できる建築士や専門家と一緒に、あなたの家とご家族を守る備えを万全にしてください。このサイトでも、災害リスクに特化した情報や、具体的な建築対策について詳しく解説していきます。

イエシール / 一級建築士と賢く家づくり

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