
住宅ローンの契約を進める中で、「団信」という言葉を耳にすることがあるでしょう。これは「団体信用生命保険」の略で、多くの場合、住宅ローン契約と切っても切り離せない重要な保険です。しかし、その内容や、万が一の時にどうなるのかを深く理解している人は意外と少ないかもしれません。
一級建築士として、私は家づくりにおける「安心」を追求していますが、その安心は建物の安全性だけでなく、ご家族の経済的な安心も含まれます。今回は、団信の基本的な仕組みと、住宅ローン契約時に必ずチェックすべきポイントを詳しく解説します。
団信(団体信用生命保険)とは? 家族を守るセーフティネット
団信(団体信用生命保険)は、住宅ローンの債務者(契約者)に万が一のことがあった場合、残された家族に経済的な負担を残さないための保険です。
基本的な仕組み:
加入の義務: 多くの金融機関では、住宅ローンを組む際に団信への加入を義務付けています。
保険金が支払われるケース: 住宅ローンの債務者が、死亡または高度障害状態になった場合。
保険金の使い道: 支払われた保険金は、住宅ローンの残高の返済に充てられます。
残された家族の負担軽減: 債務者が亡くなったり働けなくなったりしても、残された家族が住宅ローンの返済に苦しむことなく、住み慣れた家に住み続けられるようになります。
つまり、団信は、住宅ローンという長期にわたる借金を、万が一の時に家族に引き継がせないための、非常に重要なセーフティネットなのです。保険料は、多くの場合、住宅ローンの金利に上乗せされる形で徴収されるか、金融機関が負担するため、別途保険料を支払う意識がないことも多いです。
団信でチェックすべき5つのポイント
団信は義務的に加入することが多いですが、その内容をきちんと理解し、ご自身やご家族の状況に合っているかを確認することが非常に重要です。
1. 基本補償(死亡・高度障害)以外の特約の有無
団信の基本補償は「死亡」と「高度障害」ですが、近年は多様な特約を付帯できる団信が増えています。
三大疾病特約: がん、急性心筋梗塞、脳卒中の三大疾病と診断された場合、住宅ローンの残高が支払われるもの。
八大疾病特約(または七大疾病特約など): 三大疾病に加え、糖尿病、高血圧性疾患、肝硬変、慢性腎不全、慢性膵炎などの疾病まで補償範囲を広げたもの。
介護保障特約: 要介護状態になった場合に住宅ローンの残高が支払われるもの。
これらの特約を付けることで、より手厚い保障が得られますが、その分、住宅ローンの金利に上乗せされる金利も高くなります。
ポイント:
ご自身の健康状態や家族の病歴、現在の保険加入状況などを踏まえ、どこまで特約が必要か検討する。
特約を付けることで、毎月の返済額がどのくらい増えるかを正確に把握し、家計への影響を確認する。
すでに加入している生命保険や医療保険と補償内容が重複しないか確認する。重複していると無駄な保険料を支払うことになります。
2. 告知義務と健康状態
団信に加入する際には、健康状態に関する告知義務があります。過去の病歴や現在の健康状態によっては、団信に加入できなかったり、特約を付けられなかったりする場合があります。
告知内容: 持病、過去の入院・手術歴、服用中の薬などについて正確に告知する必要があります。
審査落ちの場合: 団信に加入できない場合、住宅ローン自体を組めないことがあります。その場合は、金融機関によっては団信加入が不要な住宅ローン(金利が高めになることが多い)や、引受基準緩和型の団信(金利上乗せが大きい)を検討することになります。
ポイント:
告知は正確に行いましょう。虚偽の告知は、いざという時に保険金が支払われない原因になります。
持病がある場合は、複数の金融機関の団信を比較検討したり、事前に相談したりすることをおすすめします。
3. 免責期間や支払い要件
特約付き団信の場合、「免責期間」や「支払い要件」が設けられていることがあります。例えば、「がんと診断されてから90日間は保障の対象外」といった免責期間や、「所定の就業不能状態が180日継続」といった支払い要件などです。
確認事項: 万が一の際に、どのような状況で、いつから保険金が支払われるのかを、パンフレットや重要事項説明書で詳細に確認する。
ポイント:
「診断されたらすぐに支払われるわけではない」場合があることを理解しておく。
ご自身の生活費の予備費が、免責期間中も生活を維持できるだけの余裕があるか確認する。
4. 保険料(金利上乗せ分)の総額
団信の保険料は、多くの場合、住宅ローンの金利に上乗せされる形で支払われます。例えば、「金利+0.2%」といった形で表示されます。この「0.2%」が、30年、35年といった長期にわたる返済期間でどれくらいの総額になるのかを計算してみましょう。
ポイント:
特約を多く付けるほど、この上乗せ金利は高くなります。不要な特約は付けないことで、総支払額を抑えることができます。
金融機関によって、同じような保障内容でも上乗せ金利が異なる場合があります。複数の金融機関で比較検討することも重要です。
5. 連帯債務やペアローン時の団信の扱い
夫婦で収入を合算して住宅ローンを組む場合、「連帯債務」や「ペアローン」といった形式を取ることがあります。この場合の団信の扱いも確認が必要です。
連帯債務: 主債務者のみが団信に加入するのが一般的ですが、金融機関によっては連帯債務者も加入できる「デュエット」などの商品もあります。
ペアローン: 夫婦それぞれが住宅ローンを組み、それぞれが団信に加入します。片方に万が一のことがあっても、その人のローン残高だけが清算されるため、残された側のローンは残ります。
ポイント:
夫婦でローンを組む場合は、どちらか一方に万が一のことがあった時に、残された側が生活とローンの両方を維持できるかをシミュレーションし、それに合った団信の形を選ぶ。
「連生団信」など、夫婦どちらかに万が一のことがあった際に、残りの住宅ローン残高が全額保障されるタイプも検討する。
まとめ:団信は「家族への愛」の証
団信は、住宅ローン契約の際に「当然のように加入するもの」と思われがちですが、その実態は、残されたご家族の未来を守るための非常に大切な保険です。
基本補償だけでなく、ご自身の状況に必要な特約の有無を確認する。
告知は正確に行い、加入条件を理解する。
保険料の上乗せ分と補償内容のバランスを考える。
夫婦でローンを組む場合は、万が一のケースを想定し、適切な団信の形を選ぶ。
住宅ローンの金利や返済額に目が行きがちですが、団信こそ、最も「もしも」の時に真価を発揮するものです。しっかりと内容を理解し、ご家族にとって最適な備えを選択することで、真に安心できるマイホームライフを送ることができるでしょう。このサイトでも、住宅と金融に関する様々な情報を提供していきますので、ぜひ参考にしてください。
イエシール / 一級建築士と賢く家づくり